アイフォン7に、イヤホンジャックを搭載するか否か。
革新的な機能の搭載。
ユーザーが期待するハードルを更に超えるものを作らなければ、
加速するこの世界では、置いていかれてしまう。
リリース直前、大詰めの緊迫した社内会議を終え、
少しくたびれたボクが、少しくたびれた背広を羽織る。
外に出ると、
カリフォルニアの風が夏の終わりを告げようと、
頬をそっと撫でる。
(そうか、そろそろ禁漁期間だな。)
そう思った瞬間、ボクは自宅のあるサンノゼ方面とは逆方向。
ジュニペーロ・セラ・フリーウェイを北西に、
サンフランシスコへと向かっていた。
狩野川でアマゴ釣りて~。
そんなわけで、週末の弾丸渓流釣行へと出かけることになったのだった。
日本時間AM5時。
空港のバゲージトラブルによって、3分遅れで到着したボクに、
「釣れなかったらあなたのせいです。」
とジャパニーズジョークを飛ばしてくる二人。
この二人というのが、
ジャクソンきってのトラウトマン開発部の河西氏と、
動画・雑誌、各種メディアでも活躍中、トラウトテスターの木下氏である。
エキスパートアングラー二人に囲まれ、
身が引き締まる想いというか、
若干胃が痛い。
そんな胃痛を隠しながら、
現地狩野川へと到着する。
ラインを結ぶところから、
ご指導いただき、いざ出陣。
元来インドアなボクがたいそうなところまで来たもんだなあと、
どこか現実感のない風景に圧倒される。
この濁流の中に、
クオリティフィッシュがいる、
そんな期待感を胸に、
川の流れに対して、十字を切るようにルアーを投げ込む。
出来るだけ、長い時間ルアーを泳がせるよう、
Uターンをするようにダウンからアップへ、
細かいアクションをつけながらリトリーブを繰り返す。
河西氏が「ジョーカー」
とまで言ったポイントを二つ周るが、
魚のチェイスすら見当たらない状況。
暗雲立ち込める展開に、
ボク以上に、エキスパートアングラーの二人の表情が暗い。
結論の出なかった週末の会議が頭をよぎる。
シリコンバレーの最先端テクノロジーとは正反対の、
大自然に囲まれたゲームフィッシング。
しかし、デジタルもアナログも戦略や戦術を練っても、
上手く行かないときは、上手くいかないものである。
そんな、ないようがないようなことをつぶやきながら、
釣行4時間目にして訪れた僥倖!!!
ギャラクシー!!!
なんて可愛い魚なんでしょう。
もはや、女子大生が雑貨屋で自分好みの小物を見つけてしまった時と同じリアクション。
ちょ~かわいい、である。
焦らされただけに、出たときの快感はひとしお。
名残惜しい別れを告げながら、
振り返ると、エキスパートアングラー二人も安堵の表情。
その後、さすがのお二人。
ボクとは比べものにならないスピードで、
魚がいるであろうポイントに、絶妙なキャストを続け、
プリティフィッシュたちを釣りあげる。
そして、最後の最後またもや訪れるその瞬間
エクスペリア!!!
ヒットルアーは、トラウトチューンフローティング。
今期少量限定生産で完売した、
このルアーの性能をまざまざと見ることもでき、
個人的には大満足な結果となった。
生い茂る緑の木々や、藻の生えた岩。
色や流れで変化を見せる川のウォーター、いや水。
ビューティフルワールドな渓流空間を堪能したボクは、
イヤホンジャックの廃止を心の中で決意した。
※この物語は一部フィクションです。